パート・アルバイトには有給が無いってホント?
- TVY所長 神田忠博
- 8月17日
- 読了時間: 13分
更新日:8月19日
パート・アルバイトには有給が無い???
無料相談会や当事務所へのお問い合わせで意外と多い相談内容に「パート(アルバイト)には有給なんかない」と会社で言われたのですが本当でしょうか??というものがあります。
無料相談会などでは、本当に驚かされるような内容の相談が結構あるのですが、今回の内容も意外と多い「驚くべき」相談内容です。これだけインターネットが普及して(普段からインターネットは信じるな、と言ってはいるのと矛盾はしてはいますが・・・)厚生労働省のHPでもとても詳しく説明がされている今日で、会社を経営している人、もしくは会社の労務を担当している人の口から「パートには有給は無い」「アルバイトには有給は無い」という発言が出てくること自体、社会保険労務士としては、「驚くべきこと」でとても「悲しい事」です。
実は、「有給」について労働関連諸法令の話しを本格的にすると、非常に広くて深いお話しになってしまうので今回は、まずは入口の部分について書いていきます。それでも結構長くなるはずですが・・・ご興味のある方は、どうぞ。

「有給」とは、そもそも何か?
「有給」または「有休」と言われているものは、正式名称を「年次有給休暇」と言います。これを「年次有給休暇」と略すか「年次有給休暇」と略すかの違いだけで中身は一緒です。
文脈上「有給」と出てきて、これが「年次有給休暇」を指していない場合(たとえば「午後の10分の休憩は「有給」だよ!」などという場合)もありますが、それは、今回の話とは論点が全然違いますので、ここでは「年次有給休暇」の意味で使っている「有給」「有休」について書いていきます。
さて、本題。
「有給」(年次有給休暇)とは、そもそも、いったい何でしょう?
「年次有給休暇」とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。
厚生労働省のHPに、こういう文章があります。
なぜ、いきなり厚労省HPからの引用をしたかというと・・
年次有給休暇の定義について明文で規定している法律が無いからです。年次有給休暇の規程は労働基準法の第39条にありますが、ここには、年次有給休暇を付与する条件や時期、日数・休暇の与え方や年次有給休暇の1日分の値段などが書いてあるだけで、
「そもそも年次有給休暇とは、なにか?」は規程されていません。
ですから、
「有給とはなにか?」を考えるには、過去の判例(裁判所の出した判決の内容や判決の理由)や、役所の公式見解などを読み込んで考えていくことになります。
そこで登場したのが「上で赤字にした厚生労働省HPの文章」ということになります。
詳しく見てみましょう。
「年次有給休暇」とは、
①一定期間勤続した労働者に対して、
②心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、
③「有給」で休むことができる~(中略)~休暇のことです。
①一定期間勤続した労働者に対して
年次有給休暇は「一定期間」、「勤続」した「労働者」に対して付与されます。
「一定期間」は法律などで予め決められている入社後6か月や、その後の1年ごとなどを指しています。「勤続」とは、ここではザックリ、「入社後一回退職して別の会社に行って、数か月後に復職した」とかではなく、その会社に継続して勤務し続けて迎えた入社6か月後・・・と思っていただいて大丈夫です。
「労働者」に対してと言う所は、「管理監督者」には有給が発生しない。ということです。「管理監督者」とは「店長さん」などが該当しますが、ここも難しくなるので詳しくは別記事で書くことにします。今は、普通の会社員・パート・アルバイト・嘱託社員など、いわゆる「労働者」には、みんな有給が付与される、と思っていただいてOKです。
②心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するため
ここには年次有給休暇の目的が書いてあります。つまり、「有給」の目的は「休むこと自体」であって、「会社を休んで給与を得ること」ではない、と言う事です。今後、別のコラムで書いていく予定の「有給はいつ、つかえるのか?」で詳しく解説しますが、忙しく一生懸命働いて職場の仲間の負担も気遣っている方によくある「忙しくて現場の人数もギリギリだ。有給なんて使えないから、有給の権利は本来休みの土日や年末年始で消化して有給を取ったことにする」というのはNGだ、と言う事です。
③「有給」で休むことができる~(中略)~休暇のこと
ここは感覚的になんとなくお分かりでしょうか。「有給」で休むことが出来るというのは、つまり取得した休暇分の給与をもらいながら労働義務から解放されることが出来る、という意味です。給与として受けられるのは就業規則などの事前の決まりに従って「平均賃金」だったり「通常賃金」だったり「標準報酬月額から算出した額」だったりします。
ちなみに、会社は年次有給休暇を取ったことで労働者に対して不利益な取扱をしないようにしなければならない、とされています。
このように年次有給休暇(有給)とは、
①一定期間勤続した労働者が③「有給」で休むことができる休暇で、
それは、②心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するための休暇である。
と言う事が分かります。

「パート・アルバイトには有給がないのか?」
「有給」とは、そもそも何か?についてお読みいただいたところで、
今回のコラムのド本命。
「パート・アルバイトには有給がないのか?」について、です。
結論を先に書いてしまいますが・・・
「パートにもアルバイトにも有給は、もちろん、あります」
相談会や事務所へのお問い合わせに対して、このようにお答えすると、だいたい次のような答えが返ってきます。
「でも、会社の決まりと言われてしまって・・・」
このセクションは、そういうお話しです。
※説明上、条文を上げていきますが条文を調べて読んだりしなくて大丈夫です。
※出てくる条文について、この規定が何条で、こっちが何条とか覚える必要は一切ありません。
では、本題。
年次有給休暇(有給)の付与については、労働基準法第39条第1項・第2項などに書いてあります。そこには「一定期間」「勤続」して「出勤率が80%以上」だったら年次有給休暇を与えなければならない、などと書いてあります。「パートに有給は発生しない」という規程は見当たりません。
一方で、
その会社には、担当者の方の言う通り「会社の決まり」がどうやらあるらしい。「会社の決まり」が独自にあって、そこには「パートに有給は発生しない」と書いてある。
だから、うちの会社では「パートには有給は無い」。
担当者がいうには「法律というのは「一般的な決まり事」が書いてあるけれど、うちにはうちの「会社の決まり」がある訳だから、それに従ってもらうよ」と言われている・・・・と言ったところでしょうか。
さて、この完全に矛盾している「二つの決まり事」。つまり、
「労基法の規程」と「会社の決まり」の関係はどうなるのでしょうか。
「会社の決まり」と言われているものが就業規則(またはこれに準ずるものなど)であったり、「雇用契約の内容」として労働者に提示している条件であったり、もしくは、とくに公表したりはしていないけどずっとそうしてきた単なる「事業主さんの方針」であったり、その様態によって根拠となる条文は変わってきますが、結論は同じです。
労働基準法には「労働条件の最低基準を規程している」という決まり(労基法第1条第2項)があって、就業規則はこれに違反してはいけない(労基法第92条第1項)ですし、労働基準法違反の雇用契約は「その違反している部分」について無効です(労基法第13条)。
そうして無効になった部分については「この法律で定める基準による」(労基法第13条後段)と決まっています。分かり易く嚙み砕いて言い換えると、労働基準法によって労働条件の最低ラインが引いてあって、そのラインより下の条件は自動的に労働基準法の最低ラインまで引き上げるよ!と言う事です。
今回のご質問に当てはめると・・・
「パートに有給は無い」という労働基準法違反の「会社の決まり」は無効・法令違反であって、その部分については労働基準法の決まりを適用するので、
「一定期間」「勤続」して「出勤率が80%以上」だったら年次有給休暇を与えなければならない、つまり、
「パートにもアルバイトにも有給は、もちろん、あります」という結論になります。
今日では、この話題は、TVのワイドショーや夕方のニュースなんかでも、ちょいちょい放送されていたりするので、結構有名な話と言えるでしょう。
このコラムの冒頭部分で「驚くべき」と言ったのはそういう意味です。会社の経営者の方だったり労務の担当者であれば、当然に、知っておいて欲しい事です。「悲しい事」と言ったのは我々、社労士の力不足で、このような知らない事や分からないことがあったら「社労士にひとまず聞いてみる」という世間の風潮を作ることが出来ておらず、まだまだ労働関係法令で定められた最低基準以下の労働条件で困っている方の力になれていない、と感じるからです。
余談ですが、
ご相談を受ける立場として、私は、いつも、こう続けます。
年次有給休暇がもちろんあるとして、では、一体何日あるはずなのか?
いつ?有給が発生しているはずなのか、
こういう時、会社の誰に連絡するべきなのか? そのアドバイスをするためのヒントが、そこに書いてあるはず、だからです。
ですが・・・
殆どの場合、「ありません」という回答が返ってきます。
「パートに有給なんか無い」と言い切ってしまう会社では「雇用契約の際に労働条件の明示しないと違法」という認識もないことが多いのが現状です。

「有給は何日もらえるのか?」
パートでもアルバイトでも年次有給休暇があることはお話ししました。
そこで次に問題になってくるのが「一体、何日もらえるはずなのか?」という所ではないでしょうか。
年次有給休暇の付与日数(もらえる有給の日数)についても労働基準法に書いてあります。いきなりパート・アルバイトの方の有給日数の話に行く前に、まずは、フルタイムの労働者の方の年次有給休暇の付与日数を見てください。
※ここでいう「フルタイム」とは、週5日(月~金)×一日8時間の週40時間労働で週休2日のいわゆる「正社員」と言われる方をイメージしてみてください。
条文は少々読みにくい文章になっているので、一目瞭然、分かり易く表しているの下の表がよく使われます。上段の継続勤務日数の横列は年を単にしていて「どれだけその会社で勤続したか?」です。「0.5」は「半年=6か月」を表しています。「0.5」は「6か月」、「1.5」は「1年6か月」と言う事です。下段の付与日数は、そのまま日数が入っています。
たとえば、3年6か月継続勤務して1年間の出勤率が80%以上のフルタイムの労働者には14日の年次有給休暇が付与される(下の図の色分けしてあるところ)という具合です。
継続勤務年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5~ |
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
継続勤務年数が長くなるにつれて、付与される年次有給休暇の付与日数もすこしづつ増加していっていることがお分かりいただけるかと思います。
さて、
フルタイムの労働者の方の年次有給休暇の日数について見て頂いた後は、パート・アルバイトの方の年次有給休暇の日数です。
ちょっと想像してみてください。
仮に、上の表をそのまま使うとなると・・・6年6か月以上継続勤務した週2日出勤のパートさんにも年間20日の有給が発生します。すると・・・週2日出勤ですから1か月に約8日(2日×4週)で、1か月通して有給休暇。全部有給をつなげると2か月と2週間、出勤しないでずっと有給消化中・・みたいなことになりそうです。
そこで、週の所定出勤日数と週の所定労働時間が一定より少ない方に付与される年次有給休暇の日数は別に決められています。
次はこちらの表をご覧ください。

この表は、厚生労働省HPに掲載されている有給日数に関するリーフレットから引用しています。労働基準法第39条第3項を分かり易く一覧表にしたものです。
年次有給休暇の付与日数について、いわゆる「パート」「アルバイト」という括りを考える時には、その労働者の週所定労働日数と週所定労働時間がどうなっているか?で判断します。「会社のルール」で社員の種別が「パートスタッフ」になっているとか、「アルバイトスタッフ」となっているとか、「A職員」とか「B職員」とか、「パートナースタッフ」とか…社内でどう呼ばれているかは関係ありません。
この表を使うのは「週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満」という条件に該当する場合のみで、会社で「パート」とか「アルバイト」とか呼ばれていても、この条件に該当しなければこの表ではなく、一つ上の表を使うことになります。
「週所定労働日数」というのは、いわゆる「週〇日」の契約、ということ。
「週所定労働時間」というのは、一週間に何時間働く契約なのか?ということです。
こちらの表でも、継続勤務年数が長くなると付与される年次有給休暇の日数が増えていくことが分かります。そして、所定労働日数が少なくなると(表でいうと上の段から下の段にいくにつれて)付与される年次有給休暇の日数も少なくなっていることが読み取れるかと思います。これを年次有給休暇の比例付与と言います。これによって、出勤日数が少ないパート・アルバイトさんが年次有給休暇で2か月以上出勤して来ない、みたいなことが起こらないように制度が設計されています。
稀に、会社独自の規程でこの表と異なる年次有給休暇の付与日数を就業規則(会社の決まり)などで決めている会社さんもありますが、それについても「労働基準法の最低ラインを下回ったら無効」というルールは適用されるので、「会社の決まり」で上の表より少ない年次有給休暇の付与日数を決めている場合は、労働基準法の最低ラインに則った上の表のとおりになる、逆にこの表よりも多くの年次有給休暇を付与している会社は最低ラインを上回って有給を付与してくれる「評価すべき会社さん」ということになる、という点も付け加えておきます。
今回は、有給(年次有給休暇)の入り口の所をザックリお話ししました。「パート・アルバイトには有給が無いってホント?」の問いについて一番お知りになりたい部分についてはお話し出来たのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
この先のもっと踏み込んだお話をお聞きになられたい方は、当HPの「問い合わせフォーム」から遠慮なくご連絡下さい。労働者のみなさまの毎日が「心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障」された豊かなものでありますよう希望します。
もしそうでない方がいらしたら、会社の経営者の方や労務担当者の方に、このページを見せて「こういうことらしいです」というのをお話しされると良いかと思います。
違法かもしれない、という状態のまま放置して、大きなトラブルになってしまってからでは本来必要なかった費用や時間がかかってしまいますし、従業員さん達の信頼も失ってしまいます。
そうなってしまう前に、会社の経営者の方や労務担当の方は、是非一度、私共にご連絡をください。一回関わりを持ったが最後、延々と営業を仕掛けられてしつこくDMが来たり、営業電話が何度も架かってくる・・なんてことはない(していません)のでご安心下さい。
今回も気軽にお読み頂くにはだいぶ長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
有給については、引き続きこの先の話のコラムをアップしていこうと思いますので、その時はまたお付き合いください。
