雇用契約書が無いのは違法なのか??
- TVY所長 神田忠博
- 7月22日
- 読了時間: 9分
更新日:8月2日
雇用契約書みたいなものが、ありますか?
社会保険労務士として新座市や朝霞市、志木市、和光市などで、
労務問題や社会保険に関する相談などを多く受けてきましたが、
残業、有給、休日、給与、社会保険、退職金など多くのご相談において、まず、
相談者様に質問する事柄があります。
それは・・・
「雇用契約書みたいなものが、ありますか???」です。
驚くべきことですが、「ないです」という答えが返ってくることが、
結構な頻度であります。
皆さんが会社へ行って、働いて、給料をもらう。
事業主でしたら従業員を雇って、働いてもらって、給料を払う。
「雇用契約」というのは、その約束そのものです。
その内容がキチンと決まっていない、
もしくは、決まっている筈だけど詳しくは知らないし、忘れた。。。。
「雇用契約みたいなもの」が「ない」というのは、そういう事です。
だからトラブルになる。
トラブルになった時の解決基準もハッキリしていないので、なかなか解決しない。
入社の時の約束は「口約束」だから今更それを証明するものは・・・もう、ない。
すると従業員さんは会社を信用できなくなって、こう仰います。
「雇用契約書が無いのは違法じゃないんですか?」と。
実は、「雇用契約書」というもの自体は、無くても違法ということはありません。
ですが先程、「雇用契約書みたいなもの」と表現したもの、
それがないと違法です。
これを「労働条件通知書」と言います。
では「労働条件通知書」とは、なんでしょう?
なぜ「雇用契約書みたいなもの」と表現したのでしょう??
今回は、そういうお話しです。
ご興味のある方は、どうぞ。

雇用契約書と労働条件通知書のはなし
今回も結構長くなりますので、御覧になる方が読みやすいよう
トピックを幾つかに分けておきます。
結論だけ知りたいという方は各トピックに飛べるようにしておきますが、
順序だてて書いていきますので、出来れば順番にお読みください。
<トピック一覧>
雇用契約とは、そもそも何か?
「雇用契約」と言われて何を想像されるでしょうか??大手企業でアルバイトしたりすると初日の業務開始より前に「雇用契約書」を渡されてサインする。「シャチハタ以外ね」とか言われながら印鑑を押して、後で「契約書控え」を渡される。
今の時代だとWebで契約になっていて、PDFの契約書を確認して氏名を入力したうえで「同意する」のボタンを押下、みたいな流れでしょうか。その時に確認した書類が「雇用契約書」で、その時にした「署名する」「印鑑を押す」という行為が自体が「労働契約」「雇用契約」と考えるのが一般的でしょうか。
「雇用契約書が無いから違法では?」というご質問は、この手続きをやっていないけど、法律上どうなのか?という意図から出ていることが多いです。
雇用契約の成立については、「労働契約法」という法律に規定されています。普段、あまり条文をそのまま書くことはしないのですが、今回はそのまま紹介します。労働契約法・第6条です。
「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」
これ、条文そのままのコピペです。比較的分かり易いかと思います。
①労働者が「使用者に使用されて労働すること」
②使用者が「これに対して賃金を支払う事」
③合意すること
これで雇用契約が成立する。と書いてあります。
逆に言えば、これだけ。
契約書を作ってそれぞれ一部づつ保管する、とか
署名と押印が必要で、シャチハタはダメ、とか書いてありません。
一般的には「雇用契約書」の取り交わしを行いますが、
法律上は、①②③が揃ったら労働契約は成立。口約束でもOKです。
雇用契約書が無い、というのは、まさにこの状況。
この条文の通りに行くと、その時の約束を証明するものは何もありません。
「休みが何日ある」とか「一日何時間」働くとか「業務はどこで何をやる」とか、
「残業がある」とか「給料はいくら」とか「交通費が出るとか出ない」とか、
説明は受けたけど、なんとなくしか覚えてないし、それを証明するものはない・・・
トラブルになる可能性大、です。
そこで登場するのが「労働条件通知書」です。
詳しく見ていきましょう。

労働条件通知書とは?
・入社した時の話では残業はほとんどないって言っていたのに、毎日残業だ。
・仕事を覚えたら時給を上げてくれるって言ってたのに何時まで経っても・・・。
・週3日の約束だったのに、ずっと週2日のシフトしか入れてくれない。
上記の「雇用契約とは、そもそも何か?」で話したように、雇用契約は「合意のみ」で成立してしまうため、そのままだと、いざ働き出して「あれ?」と思った時に、労働契約をした時の話がどうだったかを証明するものがありません。そこで必要になってくるのが「労働条件通知書」です。「労働条件明示書」とか「雇用条件通知書」とか似たような名前である事もありますが、中身は一緒です。ここでは厚生労働省が使っている「労働条件通知書」という名称に統一してお話を進めていきます。
さて、このコラムの一番上の方で、こう書きました。
ご相談者さまに「雇用契約書みたいなものが、ありますか???」と尋ねると、
驚くべきことですが、「ないです」という答えが返ってくることが結構あります。
ここで言っている「雇用契約書みたいなもの」がつまり「労働条件通知書」です。
あなたの仕事に関する様々な条件が書いてあるもので、雇用契約の時に渡されているはずのものなので「契約書みたいなもの」と表現しています。
「労働条件通知書」には、「いつ」「どこで」「どんな仕事を」「何時間」やって「休憩が何分」「休みは何日」それに対して「給料がいくらで」「いつ払うか」などが書いてあります。
渡されているご相談者さまは、大体これで「ピン」と来て、書類やPDFを提示してくださいます。普通は持っているはずなんです。
なぜなら・・・
この通知をすることは法律上の義務です。
「ないです」というお答えが「驚くべきこと」と言ったのは、そういう事。
すなわち、これがなければ「違法」です。
ちなみにこれは「労働基準法・第15条第1項」の規程ですが、多少難しい構造になっているので社会保険労務士試験を受けたりでもしない限り自力で読み込んだりはしなくて大丈夫です。
更に、ちなみに、今では労働者が希望する場合には別の方法でもいいことになりましたが、平成30年までは「書面での通知」(つまり紙で渡す)という義務が課されていました。
作らなくても「直ちに違法」とはならない「雇用契約書」と、
絶対に作らなくてはいけない「労働条件通知書」。
似たようなものですが、どこが違うのでしょう。詳しく見ていきます。

雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と労働条件通知書の間には、「違法」「直ちに違法ではない」という違い以前に、決定的な法的効力の違いがあります。
それは、一方は「契約書」で、他方は「通知書」であるということです。
「契約書」とは、雇用契約を締結することを労働者と使用者が合意したことを証明する書面です。通常、そこには雇用契約の内容が記載されており、労働者はその通りに働いて、使用者がその通りに給料を払う。
そのために労働時間はどれくらいで、週何日で、仕事の内容は何で、残業もあるよとか、こんな事をしたら解雇するよ、これについて労使双方が「合意」したよ。という証明になります。つまり、いざトラブルになった時、「こういう約束だった」と証明する文書になる、ということです。
一方、
「労働条件通知書」は、使用者側からの「通知書」ですので法的効力は生じません。法的に作成が義務付けられている(労働基準法15条)ため通常は作成され労働者に渡されますが、これによって雇用契約が成立したり不成立になったり、ということはありません。また労働者の合意が関与していないため、いざトラブルになった時に「この条件に合意していた」という証明にはならない、という性質があります。
このように2つの書面が存在し、「労働条件通知書」は絶対必要で、「雇用契約書」はあった方がいい。
「労働条件通知書」は決まりだから、もちろん作るけどトラブルになったら弱い。
トラブルに備えて「雇用契約書」を作ったとしても、法律上義務になっている「労働条件通知書」も作らなければならない。
そこで、
ここまでお読みいただけた方なら、もうお分かりでしょう。
一枚の書面に両方の役割を持たせてしまいましょう。

労働条件通知書兼雇用契約書
ここまでご覧頂いたように、雇用契約の際には2つの書面を作成することになります。
しかも、「労働条件通知書」の内容は「雇用契約」と整合しなければならないので、2つの書面の内容は、同じようなものになるのが分かり切っている・・・・
そこで登場するのが「労働条件通知書兼雇用契約書」という書面です。
「労働条件通知書」には記載しなければならない事項が決まっていますが、そのフォーマットまでは決まっていません。「雇用契約書」については、そもそも書面で残すことが義務付けられていないのでフォーマットはありません。
つまり、「労働条件通知書」に記載しなければならない事柄を漏れなく記載して、その内容を「使用者」から「労働者」に「通知します」という内容を盛り込んだ「契約書」を作る。
この方法でしたら「雇用契約書」を作成して労働者の皆さんと締結をすることで「この会社はちゃんとしていますよ」と言う事を伝えつつ将来のトラブルに備え、かつ、法律上の明示義務も同時に果たすことが出来ます。
更に、同じような書面を2通作って一部は「通知」なので渡すだけ、もう一通は「契約書」なので2部つくって一部は労働者に返却、もう一部は社内で保存するという事務を大幅に削減することができる。
一枚の書面で作成するので「雇用契約書」と「労働条件通知書」の内容に相違が生じるのを防ぐことも出来ます。
トラブルになってしまった後で「雇用契約書」がないことで本来必要なかったはずの時間と費用がかかってしまったり、「労働条件通知書」がないことで労働基準監督署から指導を受けてしまったりする前に、是非、ご検討してみてください。
「労働条件通知書兼雇用契約書」のフォーマットはネット検索で出てきたりもしますが、記載しなければならない事項に法改正があって、検索でダウンロードした書面の内容が改正に対応していないため不十分だったりする可能性もあります。その点にはご注意ください。
当事務所のフォーマットをご希望の方は、ご連絡をいただければ無料でお譲りしますので、お問い合わせフォームから遠慮なくご連絡下さい。
※あくまでフォーマットですので、空欄が沢山あります。御社で入力してお使いください。
労働者の皆様で「うちの会社は契約書も通知書もない」という方がいらしたら、会社の担当の方に、社会保険労務士行政書士事務所TVYという所で無料でフォーマットをもらえるから作って!とお伝えいただくと良いと思います。メルマガ登録して・・とか、一回関わりを持ったら延々とDMが送られてきて・・とか、面倒なことはないので、ご安心頂いて大丈夫だと思いますよ。